食品業界のECサイト事情・業界動向
さまざまな業界でEC市場が発展している昨今、食品業界においてもECサイトを手がける企業が増えています。そこでこちらの記事では、食品販売におけるEC市場の動向や業界特有の課題や今後の展望などについて紹介していきます。
食品販売のEC市場と動向
経済産業省が2023年8月に発表した「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2022年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は「22.7兆円」となっています。この数値は、前年と比較すると9.91%増となっていることから、EC市場は拡大傾向にあるといえます。
そのうち、食品販売分野は「物販系分野」に該当するため、物販系分野に絞って見ていきましょう。2022年における物販系分野全体のBtoC-EC市場は「13兆9,997億円(前年比5.37%増)」です。そのうち「食品、飲料、酒類」分野は「2兆7,505億円」となっており、2021年の「2兆5199億円」と比較して市場規模は9.15%増加している状況となっています。
参照元:経済産業省|令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書
(https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002-1.pdf)
食品販売におけるEC化率
上記の通り「食品・飲料・酒類」分野は分野別で見た場合、非常に大きい市場であることがわかります。ただし、2022年のEC化率は4.16%。元々食品販売分野のECは難しい部分があるといわれており、他の分野と比較すると低い数値であるといえるでしょう。
物販系分野のBtoC-EC市場規模
(https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002.html)
食品ECの種類
食品販売のECは、大きく分けて「一般的な食品EC」、「ネットスーパー」、「定期販売専門EC」の3種類があります。ここでは、それぞれの食品ECの概要や特徴についてご紹介していきます。
一般的な食品EC
生鮮食品や野菜、加工品、飲料など広く食品を取り扱うECサイトです。一般的な食品ECにおいては、百貨店や小売店などの販売業者が、自社のECサイトや複数の事業者が出店しているモール型のECサイトにて商品の販売を行います。中でもモール型のECサイトでの販売事例が多く見られますが、価格競争が激しいなどの課題もあります。
ネットスーパー
ユーザーがインターネットで注文をし、配送先に近いスーパーマーケットから配達を行う形です。生鮮食品や飲料だけではなく日用品まで幅広く販売を行っている点、最短で当日中に商品を受け取れるなどの特徴が挙げられます。ただし店舗から配送を行うため対応不可のエリアがあったり、急に在庫切れを起こすケースもあります。
定期販売専門EC
商品を定期的に配送する形態を採用しているECサイトを指します。もともと音楽や動画などで取り入れられていたサブスクリプション型ビジネスを食品業界でも取り入れたものであり、「食品サブスク」とも呼ばれています。ユーザーはプランに合わせて定額の代金を支払うことによって定期的に商品の受け取りが可能となります。
この定期販売専門ECは、生鮮食品のほかお菓子や飲料など非常に多岐に渡っており、他の店との差別化を図る販売店で取り入れられている傾向があるとされています。
食品販売の業界が抱える課題
食品販売業界におけるEC化は他の分野と比較すると伸び悩んでいる状況にあるといえます。どのような課題を抱えているのかを見ていきましょう。
鮮度重視の商品とECサイトの相性が悪い面がある
上記でも少し触れていますが、商材の特性上、食品販売とECサイトはマッチしにくい面があるとされています。その理由としては、在庫管理の難しさや入荷の見通しが立ちにくい部分などが挙げられます。
食品には賞味期限や消費期限が指定されていますので、この点を踏まえた在庫管理を行う必要がありますし、生鮮食品については天候の影響が大きくなります。自然災害や天候不良による不作や不漁などによって、商品入荷の目処が立たず出荷ができないといった状況に陥る可能性も考えられます。
他のECと比較すると客単価が低い傾向
食品ECの特徴として在庫管理や配送にかかるコストが高い反面、客単価が低い傾向が見られます。高級食材を取り扱っているECサイトであれば話は別ですが、一般的な食品ECサイトの場合には売上から得られる利益にコストが見合わない点が課題となることがあります。
身近な実店舗の利便性が高い
多くの人が自分の生活圏の中にスーパーマーケットやコンビニがあり、商品が欲しい時にすぐ購入できます。さらに、実店舗の場合には購入する商品を自分の目で見てから購入できるメリットがあります。特に生鮮食品の場合には、どのような状態なのかを確認してから購入したい人も多く、実店舗を利用している人が多いといえるでしょう。
注文から商品が届くまでにはどうしてもタイムラグが発生するため、「いつでもどこでも注文できる」というECサイトの利点を活かしにくい面があります。
食品業界の今後
今後食品業界においてECサイトを運営するにあたり、押さえておきたいポイントについてご紹介します。
少子高齢化・人口減少による影響への対応
食品業界に大きな影響を与える要素として、高齢化と人口減少が挙げられています。高齢化が進むと一人当たりの食品の消費量が減ること、さらに人口減少により消費の総量が減ってしまうために、国内マーケットの成長鈍化につながっていくといったように、食品業界に大きな影響を与えると考えられています。
このような点から、食品業界は新たな戦略を模索する必要があるといえます。ECサイトにおいても、高齢者向けの栄養価が高い商品の提供や、単身者や夫婦のみ世帯をターゲットとした小分け包装商品の提供、また健康志向商品など新しい市場の開拓など、これまでとは異なる需要の創出が鍵となってくると考えられます。
ECサイトならではの独自性を出す
食品業界でECサイトを運営するにあたっては、実店舗の利便性が高い分ECサイトならではの独自性を出すことが重要になってきます。例えば対象のECサイトでしか購入できない限定商品を販売する、クーポンを配布するなどさまざまな取り組みにより独自性を出し、実店舗との差別化を図っていくことが重要です。
また、インターネットをあまり使用していない人も使いやすいECサイトの構築もポイントのひとつといえるでしょう。
SDGsに関連した取り組み
現在食品業界においてもSDGsへの取り組みが行われています。食品メーカーとSDGsの関係については、農林水産省の「SDGs×食品産業」にもまとめられていますが、食品業界全体としては、特に食品ロスの削減などが重視されている状況となっています。
国際社会共通の目標としては、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食糧廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」という目標が示されています。
令和2年度の推計によると、日本における食品ロス量は年間522万トン。年間1人あたりの食品ロス量は41kgとなっており、1日あたりおにぎり1個分の食べ物を廃棄している計算になります。この522万トンの食品ロスのうち、事業系が275万トン、家庭系は247万トンであるため、食品ロスの削減を行うには事業者と家庭双方からの取り組みが必要な状況となっています。
参照元:消費者庁|食品ロス削減関係参考資料
(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/efforts_230324_0001.pdf)
顧客体験を提供することが重要
こちらの記事では、食品業界のECサイトに着目し、現状や課題などを解説してきました。食品ECには、生鮮食品とECサイトの相性があまり良くない面があったり、実店舗の利便性の高さなどさまざまな課題があるといえるでしょう。
その課題を解決するためには、実店舗にはない独自性を出すことがひとつの選択肢です。利便性の高いオフラインでの店舗とは異なる、オンラインならではの体験を提供することがより重要になってくると考えられます。
また食品ECに限りませんが、リピート率の向上を図ることも重要なポイント。定期購入やサブスクリプションサービスなどをうまく使ってファンを増やすなど、さまざまな施策に取り組んでみると良いでしょう。

- 監修
- コマースとCXの
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